父からの告白
あれは小学校6年生の時でした。私にとって、“当たり前の世界”が覆されることが起こったのです。
父は私を車で連れ出して、どこかへ出掛けました。その車中で父は、“大事な話がある”と前置きした上で、口を開きました。
「お父さんとお母さんは、お前の実の親ではないんだよ」
突然のことで、私が状況をすぐに理解できていないことを察して、父は続けました。
「お前はお父さんとお母さんから生まれた子どもではないんだ」
そこでさすがに私は状況が飲み込めたものの、「そんなの嘘だ!」と言うのが精一杯でした。“父が冗談でも言っているのだろう、嘘であってほしい”、そんな心境でした。でも、父の真剣な様子を目にして、それは事実で受け入れるしかないと悟った時は、ただでさえ世界が狭かった私が受けた衝撃は、とても大きいものでした。
なぜ養子になったのか?
私の生みの母は、私を出産した次の日に亡くなりました。当時はまだ幼い兄もいて、生みの父は悩み抜いた末に、男手ひとつで私まで育てることはできないと、泣く泣く私を施設に預けました。育ての両親は子どもを授からないながらも、子育てをしたいという気持ちが強く、施設を訪問した際に私を気に入り、養子に迎え入れてくれました。
両親は生みの父のことを“親戚のおじさん”だと言い、折に触れて私に生みの父と会う機会を作っていました。両親のいずれの兄弟でもないのに、“親戚”という説明に、幼心に不思議に感じていました。そうした経緯もあって、生みの父が例の親戚のおじさんだという話で、すべてがつながったのです。
いつも側にいる両親が血のつながった存在なのは疑う余地もないことで、それ以外の関係性があるなんて、考えたことすらありませんでした。時代劇のドラマで、養子縁組の存在は知っていたものの、それは違う時代の、違う世界という感覚だったのです。それがまさか、自分がそうだったなんて…
当時の私は、気持ちを整理するのにしばらく時間がかかりました。そうしたこともふまえて、両親にとって、養子である事実を私に告げることは、かなり覚悟のいることだったと思います。
でも、今にして思えばこの経験が、“血縁がとりわけ重要である”ということに囚われなくなり、その後の私の人生に大きく関係してくることになるわけですから、私には大事な、意味をもつ経験だったと言うことができます。